おりづるタワー

三分一博志 2016

#1:外観。手前が西になる。


#2:屋上広場の様子。日中なので南風が吹く。

原爆ドームに隣接する場所に建つ、オフィス・店舗・展望台などの複合ビル。従前にあったオフィスビルを自動車ディーラーの広島マツダが購入し、壊さずに増築・改修するとともに、従前なかった物販店や展望台を追加して再生させた。広島はもちろん全国的にも非常に珍しいオフィスビルのフルリノベーションである。

リノベーションの経緯

このビルのおかれた状況は少々複雑だ。もともとあったビルは1978年竣工でいわゆる旧耐震基準であり、耐震補強が必要だった。この場合、解体して別のビルに建て替えるのが普通だが、原爆ドーム周辺は市の景観規制で高さ25m制限があり、建て替えると床面積が大幅に減少してしまうため、建て替えでなく改修で対応することとなった。カーテンウォールを撤去してスケルトン状態に戻し、西側にバルコニー部分、東側にスロープ部分を増築し、旧躯体を新躯体が東西から挟み込む形で耐震補強とされた。屋上は展望台として使うこととし、大庇が新設された。

屋上広場「ひろしまの丘」

既存ビルの屋上に大庇をつけ、開放的な雰囲気のなか、風を感じながら平和記念公園などを眺められる広場へと再生した。有料にて一般公開されている。
屋上は平坦ではなく、中央部を高くして端に行くほど低くなっている。空間に変化を付ける、座るスペースを確保する、といった効果だけでなく、空間を絞ることで吹き抜ける風の速度を上げ、来訪者が風を感じやすくなる効果もあるようだ。地上50mの高所で外気に開放されているため、広島特有の風の変化(日中は南風が吹き、凪になると風が止まり、夜は北風に変わる)をダイレクトに感じることができるだろう。
化粧には木材(床はヒノキ、天井はスギ。柱は鉄骨をヒノキで覆う)が使われ、空間を暖かくしている。なお、天井高は展望台端部で5.3mある。

おりづる広場

屋上広場と同じく有料公開されているフロア。ガラス張りの展望スペース、ギャラリー、おりづるスペースが設けられている。

スパイラルスロープ

ビル東側では、タワーパーキングを撤去し、新たにスロープが増築された。おそらく屋上広場からの避難動線なのだろう(もともとのビルでは屋上に大量の人が上がる想定で設計されていなかったはずだ)。避難用の滑り台を普段使いさせるなど、遊び心(やんちゃとも言う)を感じさせる。

西側のバルコニー

ビル西側の増築部は、オフィス階では広いバルコニー(奥行き4m)となっていて、空調負荷に直結する西日を遮る。さらにバルコニーからオフィス内も含む「風の道」が確保され、三分一建築の特徴である自然換気が試みられている。(大型オフィスビルではそもそも窓が開かないことが多く、自然換気を全面的に採用するのは珍しい)

それまでの広島になかったプレイス・プロセス

本作は様々な面で「型破り」だ。屋上広場の空間としての純度の高さ(来訪者はただ景色を眺め風を感じるのみ)と、 それを担うデザイン水準の高さは特筆すべきもので、広島では他に「祈り」に特化したピースセンター(平和記念公園)があるのみ。 民間施設では唯一無二の存在といえる。一方で改修設計では関係機関協議が大変だったとの噂も聞く。施工者の苦労も絶えなかったであろうことは想像に難くない。
この「型破り」な建築が実現したのはオーナー企業の気概、そこに尽きるように思える。並みの業者ならビルの屋上を市民に開放するような面倒なことはしないし、せいぜい収益を得るために上階をレストランで埋めようとする程度のはずだ。(そうなると原爆ドームとの関係性が議論になるだろう)
できたプレイス、できるプロセス、どちらも地方都市に染みついた貧乏根性を打ち破る勢いを感じさせる。また、リノベでここまでできるという範を全国に示した意味も非常に大きいと思う。

基本的にオフィスビルなので、一般公開されているのは1階の店舗、屋上広場、おりづる広場に限られるが、この空間体験は他の場所では決してできない。展望台の入場料が高額ではあるが、建築ファンなら訪れる価値はある。

#23:原爆ドームとの対比